【日本国憲法第86条の解説】予算作成は単年度主義である

日本国憲法第86条

こちらは日本国憲法第86条の解説記事です。

この第86条が伝えたいポイントというのは……

内閣は好き勝手に費用を使えるわけではありません。
しっかりと予算をたて、国会(国民)のチェック・承認を受ける必要があります。
これは衆議院→参議院の流れで決議をとることになっています。

内閣は好き勝手に費用を使えるわけではありません。しっかりと予算をたて、国会(国民)のチェック・承認を受ける必要があります。これは衆議院→参議院の流れで決議をとることになっています。

具体的にはどういうことなのか?

そして、自民党が推し進めようとしている改憲草案の中身は?
その問題点とは?そういった解説・考察をしています。

ぜひ最後まで読んでもらえたら嬉しいです!

目次

日本国憲法第86条【予算の作成】

意訳

内閣は一年間の予算を作ること。
そして国会に提出し、国会に中身を確認してもらってOKをもらわなければならない。

内閣は一年間の予算を作ること。そして国会に提出し、国会に中身を確認してもらってOKをもらわなければならない。

原文

内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。

日本国憲法第86条を更に深堀してみよう

要点①:国家予算の会計年度独立の原則

まず、「会計年度」とありますね。
この年度は、財政法第11条にて「4月1日~3月31日」と定められています。

1月中に内閣が予算を決め、
2~3月に衆議院・参議院の予算委員会での審議・決議を経て決まります。

まず、「会計年度」とありますね。この年度は、財政法第11条にて「4月1日~3月31日」と定められています。

1月中に内閣が予算を決め、2~3月に衆議院・参議院の予算委員会での審議・決議を経て決まります。

会計年度独立の原則とは

各会計年度における経費は、その年度の歳入を以て、これを支弁しなければならない。

財政法第12条

各会計年度の経費はその年度の歳入をもって支弁すべきこととし、
特定の年度における収入支出はほかの年度のそれと区分すべきこととする原則 

各会計年度の経費はその年度の歳入をもって支弁すべきこととし、特定の年度における収入支出はほかの年度のそれと区分すべきこととする原則 

財務省

つまり、その会計年度内で収支をあわせなさい。
そして翌年度以降へ影響のないようにしなさい。

ということです。

予算が余ったから、本当は来年度の予定だったけど今年度に買ってしまえ!
でも実際に使うのは来年度なんだけどね。

みたいなことは認めませんよ、と。
全てその各会計年度以内で完結させなさい、ということです。

こういった原則を設けることで「その会計年度期間の収入・支出を明確にする」ことができるようになります。

もし、執行中に予算が不足しそうだということが分かった場合に、
それでもその会計年度の予算内でどこかを節約してやり繰りすることが求められています。

というのも。

「国家」は日本という国がある限りは終わりがなく続くものです。
だからこそ、区切りを明確に設ける必要があるのです。

もしそういった区切りを設けなければ、
「来年余る”かも”しれないから、今使ってもいいよね?」等のようになし崩し的になり、
健全性とは程遠い中身となってしまうでしょう。

つまり、その会計年度内で収支をあわせなさい。そして翌年度以降へ影響のないようにしなさい。

ということです。

予算が余ったから、本当は来年度の予定だったけど今年度に買ってしまえ!でも実際に使うのは来年度なんだけどね。

みたいなことは認めませんよ、と。全てその各会計年度以内で完結させなさい、ということです。こういった原則を設けることで「その会計年度期間の収入・支出を明確にする」ことができるようになります。

もし、執行中に予算が不足しそうだということが分かった場合に、それでもその会計年度の予算内でどこかを節約してやり繰りすることが求められています。

というのも。

「国家」は日本という国がある限りは終わりがなく続くものです。だからこそ、区切りを明確に設ける必要があるのです。

もしそういった区切りを設けなければ、「来年余る”かも”しれないから、今使ってもいいよね?」等のようになし崩し的になり、健全性とは程遠い中身となってしまうでしょう。

要点②:国家予算は「単年度主義」

国家予算は単年度主義であるため、国会のへの予算案提出・議決は毎会計年度行うべしとされています。

例えば、2022年1月~3月に決める予算案は「2022年度(2022年4月~2023年3月」のものであり、
2023年4月以降のを決めることはできません。

そして、年度内に使い終わらなかった予算は、一旦国に返さなければなりません。

これは、国家予算(国の財政)に対してコントロールできなくなるようなことを防ぐためです。

要点①の会計年度独立の原則とも併せて、
憲法をもって、とにかく財政の健全性を保とうとしていることがわかります。

国家予算は単年度主義であるため、国会のへの予算案提出・議決は毎会計年度行うべしとされています。

例えば、2022年1月~3月に決める予算案は「2022年度(2022年4月~2023年3月」のものであり、2023年4月以降のを決めることはできません。

そして、年度内に使い終わらなかった予算は、一旦国に返さなければなりません。

これは、国家予算(国の財政)に対してコントロールできなくなるようなことを防ぐためです。

要点①の会計年度独立の原則とも併せて、憲法をもって、とにかく財政の健全性を保とうとしていることがわかります。

要点③:一定条件のもと、繰越制度の適用も認めている

要点①②で、財政の健全性を保つために、
とにかく「各会計年度」単位で行おうとしていることがわかったと思います。

ですが、何でもかんでもそのようにしていては、やはり不便なこともあります。
例えば下記のようなこと。

  • 開発関係は数年単位にわたるものもある
  • 情勢や天候等の自然現象により、予定延長を余儀なくされる場合もある

システム関係の開発なんて、目的によっては数年単位にわたるものもありますね。
また、何かしらの大掛かりな工事が、気象条件等によって予定通りに終わらないこともあります。

そういった場合、それでも原則に従って、いちいち国に予算を返納し、改めて予算を組み直す……
というのもなかなか不便です。

このように、

  • 最初から複数年単位のプロジェクトであり、予算もそのように組んだ方がいいもの
  • やんごとなき理由により、延長を余儀なくされたもの

のような場合は、例外として繰越制度の適用が認められています。

要点①②で、財政の健全性を保つために、とにかく「各会計年度」単位で行おうとしていることがわかったと思います。

ですが、何でもかんでもそのようにしていては、やはり不便なこともあります。例えば下記のようなこと。

  • 開発関係は数年単位にわたるものもある
  • 情勢や天候等の自然現象により、予定延長を余儀なくされる場合もある

システム関係の開発なんて、目的によっては数年単位にわたるものもありますね。また、何かしらの大掛かりな工事が、気象条件等によって予定通りに終わらないこともあります。

そういった場合、それでも原則に従って、いちいち国に予算を返納し、改めて予算を組み直す……というのもなかなか不便です。

このように、

  • 最初から複数年単位のプロジェクトであり、予算もそのように組んだ方がいいもの
  • やんごとなき理由により、延長を余儀なくされたもの

のような場合は、例外として繰越制度の適用が認められています。

この第86条の改憲草案はどんな内容?

自民党はこの第86条をどのように改憲しようとしているのでしょうか。
そして、その問題点とは?
簡単にいうと、以下の通りです。

何をどう変えようとしている?
  1. 予算の変更を自由できるように
  2. 予算を翌年へ繰り越せるように

この2つが自由にできるよう、憲法に定めようとしています。

問題点は?
  1. 予算の変更を自由にすることの問題点とは
    「国会に」提出、また「国会の議決を採る」という記載がないため、
    「案を提出さえすれば自由にいつでも予算を変えられる」ことになってしまいます。
    →これはつまり、最初の「予算案」「議論」が意味のないものとなり、
     内閣がいつでも自由に予算を使えることになりかねません。
  2. 余った予算を翌年に自由に繰り越せるようになることの問題点
    「繰越す」ことを前提とした予算が組まれることにより、
    この国の収支の健全性が損なわれかねません。
    (計画性を必要としなくなるため、実質内閣が好き勝手に使える状態となりかねません)
    また、他の改正案も含めて考えるに、軍事費が更に膨大になっていくものと思われます。
  1. 予算の変更を自由にすることの問題点とは
    「国会に」提出、また「国会の議決を採る」という記載がないため、「案を提出さえすれば自由にいつでも予算を変えられる」ことになってしまいます。
    →これはつまり、最初の「予算案」「議論」が意味のないものとなり、内閣がいつでも自由に予算を使えることになりかねません。
  2. 余った予算を翌年に自由に繰り越せるようになることの問題点
    「繰越す」ことを前提とした予算が組まれることにより、この国の収支の健全性が損なわれかねません。(計画性を必要としなくなるため、実質内閣が好き勝手に使える状態となりかねません)
    また、他の改正案も含めて考えるに、軍事費が更に膨大になっていくものと思われます。

改憲草案の原文を紹介します。そして具体的に考察もしてみました

改憲草案原文:第86条

※赤文字が変更箇所です。

(予算)
内閣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、
その審議を受け、議決を経なければならない。

2(新設)
内閣は、毎会計年度中において、予算を補正するための予算案を提出することができる。

3(新設)
内閣は、当該会計年度開始前に第1項の議決を得られる見込みがないと認めるときは、

暫定期間に係る予算案を提出しなければならない。

4(新設)
毎会計年度の予算は、法律の定めるところにより、国会の議決を経て、

翌年度以降の年度においても支出することができる。

(予算)
内閣は、毎会計年度の予算案を作成し、国会に提出して、その審議を受け、議決を経なければならない。

2(新設)
内閣は、毎会計年度中において、予算を補正するための予算案を提出することができる。

3(新設)
内閣は、当該会計年度開始前に第1項の議決を得られる見込みがないと認めるときは、暫定期間に係る予算案を提出しなければならない。

4(新設)
毎会計年度の予算は、法律の定めるところにより、国会の議決を経て、翌年度以降の年度においても支出することができる。

自民党による言い分

(86条4項について)
これは、現行制度でも認めている繰越明許費や継続費などを憲法上認めるとともに、
いわゆる複数年度予算についても、法律の定めるところにより実施可能とするものです。

(日本国憲法改正草案Q&A増補版より引用)

(86条4項について)
これは、現行制度でも認めている繰越明許費や継続費などを憲法上認めるとともに、いわゆる複数年度予算についても、法律の定めるところにより実施可能とするものです。

(日本国憲法改正草案Q&A増補版より引用)

改憲草案の問題点①:予算変更し放題となりかねない

第2項(新設)
内閣は、毎会計年度中において、予算を補正するための予算案を提出することができる。

この新設された第2項に潜められている懸念事項は2つあります。
まずは。

壱:「憲法化」することで、予算の変更がしやすくなり、なし崩し的に拡大されかねない

憲法はこの国のとっての最高法規です。
その最高法規で「予算の変更を認めますよ」とした場合。

「変更ありきの予算作成」となり、年度中も変更し放題となります。
だって憲法で認められたのですから。

というのも。

まずは現在において、予算の変更をしたい場合はどのようになっているのか見てみましょう。
これは財政法にて定められています。

憲法はこの国のとっての最高法規です。その最高法規で「予算の変更を認めますよ」とした場合。

「変更ありきの予算作成」となり、年度中も変更し放題となります。だって憲法で認められたのですから。

というのも。

まずは現在において、予算の変更をしたい場合はどのようになっているのか見てみましょう。これは財政法にて定められています。

財政法第29条
内閣は、次に掲げる場合に限り、予算作成の手続に準じ、補正予算を作成し、これを国会に提出することができる。

1
法律上又は契約上国の義務に属する経費の不足を補うほか、予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となつた経費の支出(当該年度において国庫内の移換えにとどまるものを含む。)又は債務の負担を行なうため必要な予算の追加を行なう場合

2
予算作成後に生じた事由に基づいて、予算に追加以外の変更を加える場合

ぱっと見ただけでも、補正予算が認められる範囲・理由は限られていることがわかります。
ですが、改憲草案にはそれがありません。

法律で定めるかもしれない?

ならば、現在もすでに法律で定められていることを、なぜ憲法で定め直さなければならないのでしょうか?

これは、懸念事項2つ目につながるのでは、と考えています。

ぱっと見ただけでも、補正予算が認められる範囲・理由は限られていることがわかります。ですが、改憲草案にはそれがありません。

法律で定めるかもしれない?

ならば、現在もすでに法律で定められていることを、なぜ憲法で定め直さなければならないのでしょうか?

これは、懸念事項2つ目につながるのでは、と考えています。

弐:改正草案では、予算変更の手続きが曖昧な条文になっている

実は、改正草案における条文はかなり曖昧です。
もう一度読んでみましょう。

実は、改正草案における条文はかなり曖昧です。もう一度読んでみましょう。

憲法改正草案第86条第2項
内閣は、毎会計年度中において、予算を補正するための予算案を提出することができる。

つまり、どこに提出するのかが書かれていません。
また、「国会の審議、議決を経なければならない」ということも書かれていません。

提出だけでいいような条文となっています。

その理由を、第1項に書かれているからと思った方もいるかもしれません。
ですが、

つまり、どこに提出するのかが書かれていません。また、「国会の審議、議決を経なければならない」ということも書かれていません。提出だけでいいような条文となっています。

その理由を、第1項に書かれているからと思った方もいるかもしれません。ですが、

現在も既に法律(財政法)にて定められていることを、わざわざ憲法化しようとしていることの意味。
改憲草案を出しているのが「自民党」であることの意味。
他の改憲草案の内容。

現在も既に法律(財政法)にて定められていることを、わざわざ憲法化しようとしていることの意味。改憲草案を出しているのが「自民党」であることの意味。他の改憲草案の内容。

こういったことを考えると、
どう考えても「内閣が予算を補正したかったら提出するだけでいい」としか読めないのですよね。

「前項に準じた手続きを経て」のような一文でもあれば、また違うのでしょうけども。
ちなみに第4項も新設ですが、そちらには「国会の議決を経て」とありますし、ね…。

こういったことを考えると、どう考えても「内閣が予算を補正したかったら提出するだけでいい」としか読めないのですよね。

「前項に準じた手続きを経て」のような一文でもあれば、また違うのでしょうけども。ちなみに第4項も新設ですが、そちらには「国会の議決を経て」とありますし、ね…。

改正草案の問題点②:予算の繰り越しに制限がかからなくなる

新設された第4項は、会計年度独立の原則を壊すものです。

憲法改正草案第86条第4項
毎会計年度の予算は、法律の定めるところにより、国会の議決を経て、翌年度以降の年度においても支出することができる。

現在は、繰越制度は「あくまでも例外」だという扱いです。
その「例外」の中身についても、財政法にてしっかりと定められています。

現在は、繰越制度は「あくまでも例外」だという扱いです。その「例外」の中身についても、財政法にてしっかりと定められています。

  • 会計年度内に終わる見込みのないものについて、あらかじめ国会の議決を経て認められたもの
  • 避けがたい事故により、年度内に終えることのできなかったもの
  • 「数年度にわたる経費」としてあらかじめ国会の議決を経ているもの

また、余った予算を繰り越した場合でも、
その予算の半分以上を公債又は借入金の償還財源に充てることが定められています。

このように、現在は憲法・財政法をもって、財政の健全性を失わない工夫がなされています。

ところが、この改憲草案が適用されたらどうなるでしょうか?

法律も好きなように変えられるでしょう。
(現在の法律があるのに、わざわざ憲法化しようとしている辺り、もっと自由にしようとするでしょう)
また、国会の議決を経ればいいということは、「数で押し通す」ことができるようになるということです。

その結果、繰越に歯止めがかからなくなるであろうことは目に見えています。

そして、その繰越・剰余金予算の行き先は、軍事費へ向かうことも予想されます。
(改憲草案全体を通して読むと、とにかく国防軍を作りたい・戦争できる国にしたいことがわかります)

これもかなり危険な改憲草案です。

また、余った予算を繰り越した場合でも、その予算の半分以上を公債又は借入金の償還財源に充てることが定められています。

このように、現在は憲法・財政法をもって、財政の健全性を失わない工夫がなされています。

ところが、この改憲草案が適用されたらどうなるでしょうか?

法律も好きなように変えられるでしょう。(現在の法律があるのに、わざわざ憲法化しようとしている辺り、もっと自由にしようとするでしょう)また、国会の議決を経ればいいということは、「数で押し通す」ことができるようになるということです。

その結果、繰越に歯止めがかからなくなるであろうことは目に見えています。

そして、その繰越・剰余金予算の行き先は、軍事費へ向かうことも予想されます。(改憲草案全体を通して読むと、とにかく国防軍を作りたい・戦争できる国にしたいことがわかります)

これもかなり危険な改憲草案です。

現憲法をもう一度読む

内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。

後記

現憲法・現法律(財政法)においては、
少しでも財政の健全性を保とうとする努力の結果であることが窺い知れます。

確かに、予算を余らせないようにしてるだけでは?と思われるような使い方も見られます。
ですが、それはそれとして批判し、改善していけばいいのです。
(なお、個人的には「インフラ」に関しては特に批判はありません。メンテナンス等色々大変ですし)

ですが、改憲草案はかなり危険です。
何気ない条文のようで、健全性を大いに損なうものである。
そのことが少しでも伝われば幸いです。

現憲法・現法律(財政法)においては、少しでも財政の健全性を保とうとする努力の結果であることが窺い知れます。

確かに、予算を余らせないようにしてるだけでは?と思われるような使い方も見られます。ですが、それはそれとして批判し、改善していけばいいのです。。(なお、個人的には「インフラ」に関しては特に批判はありません。メンテナンス等色々大変ですし)

ですが、改憲草案はかなり危険です。何気ない条文のようで、健全性を大いに損なうものである。そのことが少しでも伝われば幸いです。

この第86条とも繋がりの深い条文は以下の通りです。
(リンクの文章は記事のタイトルではなく、関連がわかるような紹介文にしています)
興味のあるところを是非。

この第86条とも繋がりの深い条文は以下の通りです。(リンクの文章は記事のタイトルではなく、関連がわかるような紹介文にしています)
興味のあるところを是非。

最後まで読んでくださってありがとうございました!

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