こちらは日本国憲法第29条の解説記事です。
この第29条が伝えたいポイントというのは……
具体的にはどういうことなのか?
そして、自民党が推し進めようとしている改憲草案の中身は?
その問題点とは?そういった解説・考察をしています。
ぜひ最後まで読んでもらえたら嬉しいです!
日本国憲法第29条【財産権】
意訳
原文
日本国憲法第29条を更に深堀してみよう
要点①:財産権の「財産」とは?
まず、財産とはなんでしょうか?
それは経済的なことに関する利益のことです。
イメージしやすい「金銭(現金、貯蓄全般)」は勿論のこと、
家や土地、洋服や鞄、家具等の私物、そして著作物や特許権等も全て含まれています。
まず、財産とはなんでしょうか?それは経済的なことに関する利益のことです。
イメージしやすい「金銭(現金、貯蓄全般)」は勿論のこと、家や土地、洋服や鞄、家具等の私物、そして著作物や特許権等も全て含まれています。
要点②:私有財産制度の保障をしている
要点①で説明した「財産」。
こういった財産を個人で所有して保持することを認める。
それを「私有財産制度の保障」と言います。
これが「侵されることはない」としているのがこの憲法です。
もし、この条文がなかったらどうなるでしょうか?
「財産権(私有財産制度の保障)がない」社会だったら?
あなたが今持っているもの……
例えばお財布に入っているお金。あなたが買った洋服や鞄等。
そういったものが何の断りもなく他人に奪われても、何の「問題」にもなりません。
盗まれても、脅されたとしても。
そうなると、どう考えても社会が混乱しますよね。
また、個人同士のことだけではなく、
国(国家権力側)が私有財産を「国有にします」と勝手に奪うことも許されていません。
要点①で説明した「財産」。こういった財産を個人で所有して保持することを認める。それを「私有財産制度の保障」と言います。
これが「侵されることはない」としているのがこの憲法です。
もし、この条文がなかったらどうなるでしょうか?「財産権(私有財産制度の保障)がない」社会だったら?
あなたが今持っているもの……例えばお財布に入っているお金。あなたが買った洋服や鞄等。そういったものが何の断りもなく他人に奪われても、何の「問題」にもなりません。盗まれても、脅されたとしても。
そうなると、どう考えても社会が混乱しますよね。
また、個人同士のことだけではなく、国(国家権力側)が私有財産を「国有にします」と勝手に奪うことも許されていません。
要点③:公共の福祉に適合するように、とは?
財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
公共の福祉というのは、いわばみんなが安心して暮らせる社会だという意味合いです。
そのような公共の福祉を目的として、
それぞれの財産権に制限を掛けるための法律を定めることは認められています。
それはどんな時でしょうか。
大きくは2つの「公共の福祉」に分けられています。
- 自由国家的公共の福祉
-
災害等を防ぐために土地の利用方法を制限すること
(国民ができるだけ不利益を被ることのないように)例)
・防火地域の指定により、木造家屋建築に制限がかかる
・第一種低層住居専用地域として土地を指定し、工場建築の不可等
- 社会国家的公共の福祉
-
環境保護のために土地や建物の使用を制限すること
(国民がより住みやすい環境となるように)例)
・景観を守るための町並み条例の制定
例えば建物の高さの制限、屋根の素材の制限(瓦のみとする等)、色彩の制限等……
・戸建て住宅の場合、家の中が覗けないように生け垣を建てること
公共の福祉というのは、いわばみんなが安心して暮らせる社会だという意味合いです。
そのような公共の福祉を目的として、それぞれの財産権に制限を掛けるための法律を定めることは認められています。
それはどんな時でしょうか。大きくは2つの「公共の福祉」に分けられています。
- 自由国家的公共の福祉
-
災害等を防ぐために土地の利用方法を制限すること(国民ができるだけ不利益を被ることのないように)
例)
・防火地域の指定により、木造家屋建築に制限がかかる
・第一種低層住居専用地域として土地を指定し、工場建築の不可等
- 社会国家的公共の福祉
-
環境保護のために土地や建物の使用を制限すること(国民がより住みやすい環境となるように)
例)
・景観を守るための町並み条例の制定
例えば建物の高さの制限、屋根の素材の制限(瓦のみとする等)、色彩の制限等……
・戸建て住宅の場合、家の中が覗けないように生け垣を建てること
要点④:正当な補償とはどういう意味?
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
例えば、必要な場所に必要な道路を作ろうとした時。または道路を拡張しようとした時。
このような都市計画があるからと言って、
その土地の所有者から無理矢理土地を奪うことは認められていません。
この条文の第1項「侵してはならない」に違反します。
とはいえ、そういうことをしていたら都市計画や整備がなにもできなくなりますよね。
ですので、「正当な補償」をすれば、国民の財産である都市を取得することができる、としたのがこの条文です。
この「正当な補償」については、時価相当額を完全に補償することだとされています。
土地であれば、もし不動産屋に普通に売れば得られたであろう金額分を100%補償しなければなりません。
なお、客観的な市場価格だけではなく、
その土地を失うことで考えられるすべての損失分も含めて計算するケースもあります。
例えばその土地で商売をしている人の場合、移転に必要な経費や営業上の損失等も補償対象となります。
例えば、必要な場所に必要な道路を作ろうとした時。または道路を拡張しようとした時。
このような都市計画があるからと言って、その土地の所有者から無理矢理土地を奪うことは認められていません。この条文の第1項「侵してはならない」に違反します。
とはいえ、そういうことをしていたら都市計画や整備がなにもできなくなりますよね。ですので、「正当な補償」をすれば、国民の財産である都市を取得することができる、としたのがこの条文です。
この「正当な補償」については、時価相当額を完全に補償することだとされています。土地であれば、もし不動産屋に普通に売れば得られたであろう金額分を100%補償しなければなりません。
なお、客観的な市場価格だけではなく、その土地を失うことで考えられるすべての損失分も含めて計算するケースもあります。例えばその土地で商売をしている人の場合、移転に必要な経費や営業上の損失等も補償対象となります。
この第29条の改憲草案はどんな内容?
自民党はこの第29条をどのように改憲しようとしているのでしょうか。
そして、その問題点とは?
簡単にいうと、以下の通りです。
改憲草案の原文を紹介します。そして具体的に考察もしてみました
改憲草案原文:第29条
※赤文字が変更箇所です。
自民党による言い分
(第2項の知的財産について)
29 条2 項後段に、
「知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない」
と規定しました。
特許権等の保護が過剰になり、かえって経済活動の過度の妨げにならないよう配慮することとしたものです。
(日本国憲法改正草案Q&A増補版より引用)
(第2項の知的財産について)
29 条2 項後段に、「知的財産権については、国民の知的創造力の向上に資するように配慮しなければならない」
と規定しました。特許権等の保護が過剰になり、かえって経済活動の過度の妨げにならないよう配慮することとしたものです。
(日本国憲法改正草案Q&A増補版より引用)
改憲草案の問題点①:「保障する」は侵すことを前提としている
財産権は、これを侵してはならない 保障する。
現憲法では「侵してはならない」としていたのが、改憲草案では「保障する」になっています。
これだけでも、侵すことは前提としていると宣言したようなものです。
誰が侵すのか?それはもちろん「権力側(主に自民党側)」です。
では、どのような時に侵される可能性があるのでしょうか。
これは第1項にある
「財産権の内容は、公共の福祉 公益及び公の秩序に適合するように~」
から推察できます。
そう、公共の福祉を公益及び公の秩序に置き換えたところから。
これはつまり、
- 公益及び公の秩序に違反した時に侵される可能性が出てくる
→国の利益にならないこと、
国が求める秩序の言いなりにならなかった人の財産が侵されても、合憲となる
そしてもうひとつ。
改憲草案における第9条にも答えが書いてあります。
該当部分を抜き出して、以下に紹介します。
第9条の3:領土の保全等(改憲草案における新設)
国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、
領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
「国民と協力して」「領土~~を保全し」「資源を確保しなければならない」
まず、改憲草案の全体方針として「国民は国のためにある」と変更しようとしています。
現在は「国が、国民のために存在する」のです。
国は国民一人一人が暮らしやすい社会となるようにしなければなりません。
ですが、改憲草案では、「国の望む方向に、国民が合わせなさい」となっています。
そのことを踏まえて、改憲草案を読んでみますと「財産権を保障する」とした目的が見えてきます。
そう、国が望めば国民から財産を徴収することが可能となってしまうわけです。
なにしろ、国民と協力する(正確には国民に協力させる)ことも、憲法に明記されるわけですから。
「協力感謝いたします」という言葉のもとでの強制徴収が可能となります。
現憲法では「侵してはならない」としていたのが、改憲草案では「保障する」になっています。
これだけでも、侵すことは前提としていると宣言したようなものです。誰が侵すのか?それはもちろん「権力側(主に自民党側)」です。
では、どのような時に侵される可能性があるのでしょうか。
これは第1項にある「財産権の内容は、公共の福祉 公益及び公の秩序に適合するように~」から推察できます。そう、公共の福祉を公益及び公の秩序に置き換えたところから。
これはつまり、
- 公益及び公の秩序に違反した時に侵される可能性が出てくる
→国の利益にならないこと、国が求める秩序の言いなりにならなかった人の財産が侵されても、合憲となる
そしてもうひとつ。改憲草案における第9条にも答えが書いてあります。該当部分を抜き出して、以下に紹介します。
第9条の3:領土の保全等(改憲草案における新設)
国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
「国民と協力して」「領土~~を保全し」「資源を確保しなければならない」
まず、改憲草案の全体方針として「国民は国のためにある」と変更しようとしています。現在は「国が、国民のために存在する」のです。国は国民一人一人が暮らしやすい社会となるようにしなければなりません。
ですが、改憲草案では、「国の望む方向に、国民が合わせなさい」となっています。
そのことを踏まえて、改憲草案を読んでみますと「財産権を保障する」とした目的が見えてきます。
そう、国が望めば国民から財産を徴収することが可能となってしまうわけです。なにしろ、国民と協力する(正確には国民に協力させる)ことも、憲法に明記されるわけですから。「協力感謝いたします」という言葉のもとでの強制徴収が可能となります。
改憲草案の問題点②:「知的財産権」という言葉を出した理由
財産権の内容は、公共の福祉 公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。
この場合において、知的財産権については、
国民の知的想像力の向上に資するように配慮しなければならない。
改憲草案では「財産権」の中から、特に「知的財産権」をピックアップしてきました。
それはなぜでしょうか。
その前に……
- 「知的財産」とは?
-
知的活動によって生み出されたアイディアや創作物全般の中から、特に財産的な価値をもったものの総称。
- 「知的財産権」とは?
-
上記の「知的財産」の中でも、法律で保護された権利のこと。
特許権や実用新案権(小さな発明)、意匠権(デザイン)、商標権、著作権等々。 - 「知的財産権」に関する法律があるのは?
-
知的財産というのは「もの」でないがゆえに(いわば「情報」)、模倣されやすいものでもあります。
かつ、ひとたび拡散されれば、多くの人々が容易に利用できてしまいます。そうなれば、最初に生み出した人(創作者)の財産や権利が守られていないことになります。
盗んだもん勝ち、商売上手なもん勝ちとなってしまいます。そういったことから創作者の権利を守るために、
社会が必要とする範囲で、ある程度の自由を制限する法律ができました。
そんな「知的財産権」のみ、なぜピックアップしたのか?
自民党はこのように理由を述べています。
「特許権等の保護が過剰になり、かえって経済活動の過度の妨げにならないよう配慮することとしたものです。」
ですが、これは今まで通り法律改正や新たに制定することで対応できるものです。
それにもかかわらずわざわざ憲法化したということは、これはやはり深読みしなければならない事案でしょう。
憲法改正を通して、自民党が本当に目指しているものから考える必要があります。
それはかつての大日本帝国時代のように「国民から人権を奪い」「戦争ができる国」とすること。
このことから「知的財産権」がどう絡んでくるのか?と考えると、
それはやはり「軍事に関係する知的財産権」を指していると考えても、おそらく間違いではないでしょう。
現在、科学研究者や日本学術会議では、軍事研究に関しては否定的な立場をとっています。
これは今までの戦争の反省からです。
ですが、先ほども言ったように、自民党は改憲を通して戦争できる国に戻そうとしています。
そして、この条文の1行目の変更をもう一度読んでみてください。
「財産権の内容は、公共の福祉 公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。」
そう、「公益及び公の秩序」という言葉。それに適合するように法律で定める。
戦争で勝てる国にする(国益)に適合する法律。
軍事研究をさせることを認める法律が可能となるわけです。
第1項も改正することで、国が国民の財産権を侵すことが合憲となりますから、なおさらでしょう。
「国民の知的想像力の向上に資するように配慮」とありますが、
軍事研究をはじめとした戦争(軍事力強化)に関する知的想像力を育てる教育を強いる等、
そういったことも考えられます。
なにしろ、そういった法律を作ろうが、違憲ではなくなってしまうのですから。
財産権の内容は、公共の福祉 公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。この場合において、知的財産権については、国民の知的想像力の向上に資するように配慮しなければならない。
改憲草案では「財産権」の中から、特に「知的財産権」をピックアップしてきました。
それはなぜでしょうか。その前に……
- 「知的財産」とは?
-
知的活動によって生み出されたアイディアや創作物全般の中から、特に財産的な価値をもったものの総称。
- 「知的財産権」とは?
-
上記の「知的財産」の中でも、法律で保護された権利のこと。特許権や実用新案権(小さな発明)、意匠権(デザイン)、商標権、著作権等々。
- 「知的財産権」に関する法律があるのは?
-
知的財産というのは「もの」でないがゆえに(いわば「情報」)、模倣されやすいものでもあります。かつ、ひとたび拡散されれば、多くの人々が容易に利用できてしまいます。
そうなれば、最初に生み出した人(創作者)の財産や権利が守られていないことになります。盗んだもん勝ち、商売上手なもん勝ちとなってしまいます。
そういったことから創作者の権利を守るために、社会が必要とする範囲で、ある程度の自由を制限する法律ができました。
そんな「知的財産権」のみ、なぜピックアップしたのか?
自民党はこのように理由を述べています。「特許権等の保護が過剰になり、かえって経済活動の過度の妨げにならないよう配慮することとしたものです。」
ですが、これは今まで通り法律改正や新たに制定することで対応できるものです。それにもかかわらずわざわざ憲法化したということは、これはやはり深読みしなければならない事案でしょう。
憲法改正を通して、自民党が本当に目指しているものから考える必要があります。それはかつての大日本帝国時代のように「国民から人権を奪い」「戦争ができる国」とすること。
このことから「知的財産権」がどう絡んでくるのか?と考えると、それはやはり「軍事に関係する知的財産権」を指していると考えても、おそらく間違いではないでしょう。
現在、科学研究者や日本学術会議では、軍事研究に関しては否定的な立場をとっています。これは今までの戦争の反省からです。ですが、先ほども言ったように、自民党は改憲を通して戦争できる国に戻そうとしています。
そして、この条文の1行目の変更をもう一度読んでみてください。「財産権の内容は、公共の福祉 公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。」
そう、「公益及び公の秩序」という言葉。それに適合するように法律で定める。戦争で勝てる国にする(国益)に適合する法律。
軍事研究をさせることを認める法律が可能となるわけです。
第1項も改正することで、国が国民の財産権を侵すことが合憲となりますから、なおさらでしょう。
「国民の知的想像力の向上に資するように配慮」とありますが、軍事研究をはじめとした戦争(軍事力強化)に関する知的想像力を育てる教育を強いる等、そういったことも考えられます。
なにしろ、そういった法律を作ろうが、違憲ではなくなってしまうのですから。
現憲法をもう一度読む
財産権は、これを侵してはならない。
2
財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3
私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。
後記
かつては、権力者が一般人の土地や財産を勝手に取り上げたり、
国の為だと言って強制的に押収することがまかり通っていました。
今、そういったことが認められていないのもこの憲法のおかげだと言えるでしょう。
かつては、権力者が一般人の土地や財産を勝手に取り上げたり、国の為だと言って強制的に押収することがまかり通っていました。
今、そういったことが認められていないのもこの憲法のおかげだと言えるでしょう。
繋がりのある条文
この第29条とも繋がりの深い条文は以下の通りです。
(リンクの文章は記事のタイトルではなく、関連がわかるような紹介文にしています)
興味のあるところを是非。
この第29条とも繋がりの深い条文は以下の通りです。(リンクの文章は記事のタイトルではなく、関連がわかるような紹介文にしています)
興味のあるところを是非。
最後まで読んでくださってありがとうございました!