【日本国憲法第72条の解説】内閣総理大臣の権力は強力である

日本国憲法第72条

こちらは日本国憲法第72条の解説記事です。

この第72条が伝えたいポイントというのは……

内閣総理大臣が内閣の代表として行う職務についても憲法にて定められています。

・議案を国会へ提出
・国務や交友関係の参加、国会への報告
 (例:G20、サミット等)
・行政各部への指揮監督

分かりやすく言うと、会社の社長のようなイメージとなります。

内閣総理大臣が内閣の代表として行う職務についても憲法にて定められています。

・議案を国会へ提出
・国務や交友関係の参加、国会への報告
 (例:G20、サミット等)
・行政各部への指揮監督

分かりやすく言うと、会社の社長のようなイメージとなります。

具体的にはどういうことなのか?

そして、自民党が推し進めようとしている改憲草案の中身は?
その問題点とは?そういった解説・考察をしています。

ぜひ最後まで読んでもらえたら嬉しいです!

目次

日本国憲法第72条【内閣総理大臣の職務権限】

意訳

内閣総理大臣は、内閣の代表者である。
代表として、様々な職務を行う。

内閣総理大臣は、内閣の代表者である。代表として、様々な職務を行う。

原文

内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。

日本国憲法第72条を更に深堀してみよう

要点①:議案とは

国会にて決議されるべきとして、内閣側から発案される案件すべてを言います。
ほとんどは予算案と法律案です。

なお、予算案については第86条にて「内閣が予算案を作って、国会で議論する」よう規定されています。

国会にて決議されるべきとして、内閣側から発案される案件すべてを言います。ほとんどは予算案と法律案です。

なお、予算案については第86条にて「内閣が予算案を作って、国会で議論する」よう規定されています。

要点②:一般国務や外交関係とは

一般国務とは、行政事務すべてを言います。

外交関係は、例えばG20やサミットでは内閣総理大臣が国の代表として出席していますが、
そういったことを指しています。

一般国務とは、行政事務すべてを言います。

外交関係は、例えばG20やサミットでは内閣総理大臣が国の代表として出席していますが、そういったことを指しています。

要点③:行政各部の指揮監督とは

例えてみるならば、

  • 内閣総理大臣⇒会社の社長
  • 国務大臣(各省庁のトップ)⇒社内における各部門のトップ

といったところでしょうか。
内閣総理大臣は、それぞれの省庁のトップに対する指揮監督を行える権利を有しているということです。

一応、閣議決定が必要となっていますが、
それでも、行政を滞りなく行うために随時指導や助言等の指示を与える権限も持っていることを、
最高裁判所にて判断されたこともあります。(ロッキード事件)

例えてみるならば、

  • 内閣総理大臣⇒会社の社長
  • 国務大臣(各省庁のトップ)⇒社内における各部門のトップ

といったところでしょうか。内閣総理大臣は、それぞれの省庁のトップに対する指揮監督を行える権利を有しているということです。

一応、閣議決定が必要となっていますが、それでも、行政を滞りなく行うために随時指導や助言等の指示を与える権限も持っていることを、最高裁判所にて判断されたこともあります。(ロッキード事件)

この第72条の改憲草案はどんな内容?

自民党はこの第72条をどのように改憲しようとしているのでしょうか。
そして、その問題点とは?
簡単にいうと、以下の通りです。

何をどう変えようとしている?

内閣総理大臣が、内閣内で相談しなくても単独の判断で色んな事ができるようにしようとしています。

問題点は?

内閣総理大臣の権限が限りなく広げられることにより、完全な独裁政治となる恐れがあります。

改憲草案の原文を紹介します。そして具体的に考察もしてみました

改憲草案原文:第72条

※赤文字が変更箇所です。

(内閣総理大臣の職務)
内閣総理大臣は、行政各部を指揮監督し、その総合調整を行う。

2
内閣総理大臣は、内閣を代表して、議案を国会に提出し、
並びに一般国務及び外交関係について国会に報告する。

3(新設)
内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する。

(内閣総理大臣の職務)
内閣総理大臣は、行政各部を指揮監督し、その総合調整を行う。

2
内閣総理大臣は、内閣を代表して、議案を国会に提出し、並びに一般国務及び外交関係について国会に報告する。

3(新設)
内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する。

自民党による言い分

(1)行政各部の指揮監督・総合調整権
現行憲法及び内閣法では、内閣総理大臣は、
全て閣議にかけた方針に基づかなければ行政各部を指揮監督できないことになっていますが、
今回の草案では、内閣総理大臣が単独で(閣議にかけなくても)、
行政各部の指揮監督、総合調整ができると規定したところです。

(2)国防軍の最高指揮権
72 条3 項で、「内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する」と規定しました。
内閣総理大臣が国防軍の最高指揮官であることは9 条の2 第1 項にも規定しましたが、
内閣総理大臣の職務としてこの条でも再整理したものです。
内閣総理大臣は最高指揮官ですから、
国防軍を動かす最終的な決定権は、防衛大臣ではなく、内閣総理大臣にあります。
また、法律に特別の規定がない場合には、閣議にかけないで国防軍を指揮することができます。

(日本国憲法改正草案Q&A増補版より引用)

(1)行政各部の指揮監督・総合調整権
現行憲法及び内閣法では、内閣総理大臣は、全て閣議にかけた方針に基づかなければ行政各部を指揮監督できないことになっていますが、今回の草案では、内閣総理大臣が単独で(閣議にかけなくても)、行政各部の指揮監督、総合調整ができると規定したところです。

(2)国防軍の最高指揮権
72 条3 項で、「内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する」と規定しました。内閣総理大臣が国防軍の最高指揮官であることは9 条の2 第1 項にも規定しましたが、内閣総理大臣の職務としてこの条でも再整理したものです。内閣総理大臣は最高指揮官ですから、国防軍を動かす最終的な決定権は、防衛大臣ではなく、内閣総理大臣にあります。また、法律に特別の規定がない場合には、閣議にかけないで国防軍を指揮することができます。

(日本国憲法改正草案Q&A増補版より引用)

改憲草案の問題点①:「総合調整」の曖昧さと危うさ

第1項に「総合調整」という言葉が入っています。
ですが、この言葉の範囲、
つまり「総合調整とは具体的にどういうことなのか?可能な範囲は?」ということは明記されていません。

ということは、時の内閣(踏み込んでいうならば自民党)の好きなようにいくらでも解釈できるということです。

内閣総理大臣が好きなだけ、行政各部に指示を出したり動かしたりすることが可能となります。

第1項に「総合調整」という言葉が入っています。
ですが、この言葉の範囲、つまり「総合調整とは具体的にどういうことなのか?可能な範囲は?」ということは明記されていません。

ということは、時の内閣(踏み込んでいうならば自民党)の好きなようにいくらでも解釈できるということです。

内閣総理大臣が好きなだけ、行政各部に指示を出したり動かしたりすることが可能となります。

改憲草案の問題点②:内閣(国務大臣)の存在意義がなくなる

自民党はこうも説明しています。

「内閣総理大臣が単独で(閣議にかけなくても)」

つまり、内閣総理大臣の独裁を憲法上にて認めますよ、と言っているようなものです。

実際、第1項には「内閣を代表して」という文言が入っていません。

(第1項)
内閣総理大臣は、行政各部を指揮監督し、その総合調整を行う。

そうなれば、国務大臣……「内閣」の存在意義はどこへ?という話となってしまいます。
なにしろ、国務大臣の意見を聞かずに「総合調整」という名目で動けるようになるわけですから。

実は現在は全会一致が基本原則となっています。
つまり、総理大臣が何かしらを提案したとしても、
内閣のメンバー全員が賛成とならないかぎり(全会一致)、その意見は通らないのです。

ところが、この改正草案では、そういった基本原則が明らかに崩されています。
各国務大臣が反対したとしても、いや、そもそも閣議にかけるまでもなく。
総理大臣が自分のタイミングで、
自分だけの意見で好きなように「指揮監督・総合調整」することが可能となってしまいます。

それはつまり「内閣総理大臣の独裁を憲法にて認める」ということにもなります。

そうなれば、国務大臣……「内閣」の存在意義はどこへ?という話となってしまいます。なにしろ、国務大臣の意見を聞かずに「総合調整」という名目で動けるようになるわけですから。

実は現在は全会一致が基本原則となっています。つまり、総理大臣が何かしらを提案したとしても、内閣のメンバー全員が賛成とならないかぎり(全会一致)、その意見は通らないのです。

ところが、この改正草案では、そういった基本原則が明らかに崩されています。各国務大臣が反対したとしても、いや、そもそも閣議にかけるまでもなく。総理大臣が自分のタイミングで、自分だけの意見で好きなように「指揮監督・総合調整」することが可能となってしまいます。

それはつまり「内閣総理大臣の独裁を憲法にて認める」ということにもなります。

改正草案の問題点③:国防軍の最高指揮権

改憲草案では、「国防軍」という名の明らかな軍隊を持つことも目指しています。
(この辺りは別途、第9条改憲草案の記事にて説明しています。)

そして、この第72条にて新設された第3項。
改めて見てみましょう。

改憲草案では、「国防軍」という名の明らかな軍隊を持つことも目指しています。(この辺りは別途、第9条改憲草案の記事にて説明しています。)

そして、この第72条にて新設された第3項。改めて見てみましょう。

(第3項 新設)
内閣総理大臣は、最高指揮官として、国防軍を統括する。

つまり「内閣総理大臣一人だけの判断で国防軍を動かすことができる」と書かれているわけです。

再掲となりますが、改憲理由としても以下のように述べられています。

内閣総理大臣は最高指揮官ですから、国防軍を動かす最終的な決定権は、
防衛大臣ではなく、内閣総理大臣にあります。
また、法律に特別の規定がない場合には、閣議にかけないで国防軍を指揮することができます。

内閣総理大臣は最高指揮官ですから、国防軍を動かす最終的な決定権は、防衛大臣ではなく、内閣総理大臣にあります。また、法律に特別の規定がない場合には、閣議にかけないで国防軍を指揮することができます。

日本国憲法は、日本における最高法規です。(第98条
これは改憲草案においても変わりありません。

※改憲草案第9条では「国会の承認その他統制~」とありますが、
 これはあくまでも法律の定めるところによるものだと書かれています。
 ですので、実質「内閣総理大臣の一存で国防軍を動かせる」ことに変わりはありません。

そんな憲法にてこの条文が成立した場合。
それこそ、本当に「内閣総理大臣の判断のみ」で国防軍を動かすことができるようになってしまいます。

だって、そのことを「最高法規である憲法で認めている」わけですから。

そして、揚げ足を取るような感じになるかもしれませんが、
内閣総理大臣の指示に反発したり物申したりすることが「憲法違反」となり
罰せられてしまうかもしれないのです。

日本国憲法は、日本における最高法規です。(第98条)これは改憲草案においても変わりありません。

※改憲草案第9条では「国会の承認その他統制~」とありますが、これはあくまでも法律の定めるところによるものだと書かれています。ですので、実質「内閣総理大臣の一存で国防軍を動かせる」ことに変わりはありません。

そんな憲法にてこの条文が成立した場合。それこそ、本当に「内閣総理大臣の判断のみ」で国防軍を動かすことができるようになってしまいます。

だって、そのことを「最高法規である憲法で認めている」わけですから。

そして、揚げ足を取るような感じになるかもしれませんが、内閣総理大臣の指示に反発したり物申したりすることが「憲法違反」となり罰せられてしまうかもしれないのです。

現憲法をもう一度読む

内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び交友関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。

後記

改憲草案では、内閣総理大臣による独裁政治が可能な状態へ持っていこうとしています。
その一端が見られる条文でもあります。

憲法は最高法規です。
そんな憲法の中で、このように明確に独裁を認める状態にしてしまうことは非常に怖いことです。

なお。
現在の憲法に則ったとしても、内閣総理大臣に与えられた力はかなり強いです。

例えば、小泉純一郎元総理はこのような発言をしています。
「総理がやろうと思えば反対派を黙らせることなんてできる。」

また、宮澤喜一元総理は、そのことを理解し、だからこそ抑制しようとしていたことも。
そう、彼の場合は「絶大な権力だからこそ抑制的に行使しなければならない」と考えていたこともわかっています。

使おうと思えばとことん使うことのできる権力。
それをどう使うのか。どんな人が総理大臣にふさわしいのか。

よくよく考えていかなければならない、そう思います。

改憲草案では、内閣総理大臣による独裁政治が可能な状態へ持っていこうとしています。その一端が見られる条文でもあります。

憲法は最高法規です。そんな憲法の中で、このように明確に独裁を認める状態にしてしまうことは非常に怖いことです。

なお。現在の憲法に則ったとしても、内閣総理大臣に与えられた力はかなり強いです。

例えば、小泉純一郎元総理はこのような発言をしています。「総理がやろうと思えば反対派を黙らせることなんてできる。」

また、宮澤喜一元総理は、そのことを理解し、だからこそ抑制しようとしていたことも。そう、彼の場合は「絶大な権力だからこそ抑制的に行使しなければならない」と考えていたこともわかっています。

使おうと思えばとことん使うことのできる権力。それをどう使うのか。どんな人が総理大臣にふさわしいのか。よくよく考えていかなければならない、そう思います。

この第72条とも繋がりの深い条文は以下の通りです。
(リンクの文章は記事のタイトルではなく、関連がわかるような紹介文にしています)
興味のあるところを是非。

この第72条とも繋がりの深い条文は以下の通りです。(リンクの文章は記事のタイトルではなく、関連がわかるような紹介文にしています)
興味のあるところを是非。

最後まで読んでくださってありがとうございました!

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