こちらは日本国憲法第70条の解説記事です。
この第70条が伝えたいポイントというのは……
具体的にはどういうことなのか?
そして、自民党が推し進めようとしている改憲草案の中身は?
その問題点とは?そういった解説・考察をしています。
ぜひ最後まで読んでもらえたら嬉しいです!
日本国憲法第70条【内閣総理大臣の欠缺又は総選挙施行による総辞職】
意訳
原文
日本国憲法第70条を更に深堀してみよう
要点①:「欠缺(けんけつ)」とはどういう状況?
要点②:総選挙の後に辞職するのはなぜ?
衆議院議員総選挙の後は議員が変わっています。
内閣総理大臣は国会議員の中から選ばれますが(第67条)、
その時に選出された議員とはまた顔ぶれが変わっていますね。
そして、総選挙後の国会は「直近の国民の民意が反映されている」議員・政党になりますので、
それにならって総理大臣も改めて選び直すように憲法で規定されています。
衆議院議員総選挙の後は議員が変わっています。
内閣総理大臣は国会議員の中から選ばれますが(第67条)、その時に選出された議員とはまた顔ぶれが変わっていますね。
そして、総選挙後の国会は「直近の国民の民意が反映されている」議員・政党になりますので、それにならって総理大臣も改めて選び直すように憲法で規定されています。
この第70条の改憲草案はどんな内容?
自民党はこの第70条をどのように改憲しようとしているのでしょうか。
そして、その問題点とは?
簡単にいうと、以下の通りです。
改憲草案の原文を紹介します。そして具体的に考察もしてみました
改憲草案原文:第70条
※赤文字が変更箇所です。
自民党による言い分
内閣総理大臣は、内閣の最高責任者として重大な権限を有し、
今回の草案で、その権限を更に強化しています。
そのような内閣総理大臣に不慮の事態が生じた場合に、
「内閣総理大臣が欠けたとき」に該当するか否かを誰が判断して、
内閣総辞職を決定するための閣議を誰が主宰するのか、ということが、
現行憲法では規定が整備されていません。
しかし、それでは危機管理上も問題があるのではないか、
指定を受けた国務大臣が内閣総理大臣の職務を臨時代行する根拠は、
やはり憲法上規定すべきではないか、との観点から、
今回の草案の70 条2 項では、明文で「内閣総理大臣が欠けたとき、
その他これに準ずる場合として法律で定めるときは、
内閣総理大臣があらかじめ指定した国務大臣が、臨時に、その職務を行う」と規定しました。
「内閣総理大臣が欠けたとき」とは、
典型的には内閣総理大臣が死亡した場合、
あるいは国会議員の資格を失ったときなどをいいます。
「その他これに準ずる場合として法律で定めるとき」とは、
具体的には、意識不明になったときや事故などに遭遇し生存が不明になったときなど、
現職に復帰することがあり得るが、総理としての職務を一時的に全うできないような場合を想定しています。
(日本国憲法改正草案Q&A増補版より引用)
内閣総理大臣は、内閣の最高責任者として重大な権限を有し、今回の草案で、その権限を更に強化しています。
そのような内閣総理大臣に不慮の事態が生じた場合に、「内閣総理大臣が欠けたとき」に該当するか否かを誰が判断して、内閣総辞職を決定するための閣議を誰が主宰するのか、ということが、現行憲法では規定が整備されていません。
しかし、それでは危機管理上も問題があるのではないか、指定を受けた国務大臣が内閣総理大臣の職務を臨時代行する根拠は、やはり憲法上規定すべきではないか、との観点から、今回の草案の70 条2 項では、明文で「内閣総理大臣が欠けたとき、その他これに準ずる場合として法律で定めるときは、内閣総理大臣があらかじめ指定した国務大臣が、臨時に、その職務を行う」と規定しました。
「内閣総理大臣が欠けたとき」とは、典型的には内閣総理大臣が死亡した場合、あるいは国会議員の資格を失ったときなどをいいます。
「その他これに準ずる場合として法律で定めるとき」とは、具体的には、意識不明になったときや事故などに遭遇し生存が不明になったときなど、現職に復帰することがあり得るが、総理としての職務を一時的に全うできないような場合を想定しています。
(日本国憲法改正草案Q&A増補版より引用)
改憲草案の問題点①:欠缺以外でも代行をたてられるようになってしまう
自民党は下記のようにもっともらしく代行に関する規定がないと言っています。
そのような内閣総理大臣に不慮の事態が生じた場合に、
「内閣総理大臣が欠けたとき」に該当するか否かを誰が判断して、
内閣総辞職を決定するための閣議を誰が主宰するのか、ということが、
現行憲法では規定が整備されていません。
そのような内閣総理大臣に不慮の事態が生じた場合に、「内閣総理大臣が欠けたとき」に該当するか否かを誰が判断して、内閣総辞職を決定するための閣議を誰が主宰するのか、ということが、現行憲法では規定が整備されていません。
確かに憲法にはありませんが、実は法律にて定められています。
【内閣法第9条】
内閣総理大臣に事故のあるとき、又は内閣総理大臣が欠けたときは、
その予め指定する国務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を行う。
【内閣法第9条】
内閣総理大臣に事故のあるとき、又は内閣総理大臣が欠けたときは、その予め指定する国務大臣が、臨時に、内閣総理大臣の職務を行う。
これを、法律から憲法へわざわざ移動させるということは、そこには必ず意味があります。
また「その他これに準ずる場合として法律で定めるときは」という一文が追加されています。
「内閣総理大臣が欠ける」ことの意味は、現憲法と変わりはないようですが、
それに加えて、新しく法律で定められる=解釈が広がる、ということです。
現憲法では「内閣総理大臣が復帰する見込みがない」とみなされた時に適用されますが、
改憲することによって、それ以外の時も代行を立てることが可能となってしまいます。
こうすることによって、例えば総理大臣が何かしらで批判された時、
一時的に代行を立てて逃げたりするようなことも可能となります。
また、こういった代行を「憲法」で認めてしまうことは、問題点(危険性)が大きいのですが、
この点は次項にて説明します。
これを、法律から憲法へわざわざ移動させるということは、そこには必ず意味があります。また「その他これに準ずる場合として法律で定めるときは」という一文が追加されています。
「内閣総理大臣が欠ける」ことの意味は、現憲法と変わりはないようですが、それに加えて、新しく法律で定められる=解釈が広がる、ということです。
現憲法では「内閣総理大臣が復帰する見込みがない」とみなされた時に適用されますが、改憲することによって、それ以外の時も代行を立てることが可能となってしまいます。
こうすることによって、例えば総理大臣が何かしらで批判された時、一時的に代行を立てて逃げたりするようなことも可能となります。
また、こういった代行を「憲法」で認めてしまうことは、問題点(危険性)が大きいのですが、この点は次項にて説明します。
改憲草案の問題点②:代行を「憲法」に入れてしまうことの危険性
現在、総理代行が法律にある理由。
それは、日本は国民主権であり、議院内閣制を採用しているからです(第67条)
国会議員は国民が選出しますし、その国民に選ばれた議員が総理大臣を選ぶ、
それはつまり、間接的とはいえ、国民が内閣総理大臣を選ぶということです。
ですが、国務大臣は全員が国会議員である必要はありません(第68条)
半分は民間人でも構わない、つまり国民の意思とは関係なく選ぶことができるのです。
だから、代行はあくまでも代行でしかない、と現憲法ではそのようにしています。
そして憲法を素直に読めば、代行ができることは「総辞職」のみとも読めます。
それも当然のことでしょう。
ですが。
改憲草案では「臨時に、その職務を行う」という言葉も追記されています。
その職務は果たして「総辞職」だけなのでしょうか?
法律も新たに整備されるでしょうから、その時に何をどう追記されるのか。
問題点①でも指摘しましたが、
改憲草案では「復帰の見込みがある場合でも、一時的に代行を立てられる」ようになる可能性があります。
ということは、代行ができる職務は総辞職以外にもあると考える方が自然でしょう。
そして、それを、日本の最高法規である憲法で認めてしまうということ。
国会議員以外の人であっても総理代行に立てられる可能性をはらんだまま。
そしてそうした人が、内閣総理大臣としての権利を使える可能性もあるということ。
こうなれば、誰も代行を咎めることができなくなってしまうのです。
あなたは総理ではない!代行だ!越権行為だ!という指摘もできないということです。
それは国民主権や議院内閣制の崩壊でもあります。
※現状、入院等で総理大臣が一時的に離脱する場合。
過去はほとんどがそのまま辞職しています。
基本的には辞職することになるのでしょうね。
なお。
一応、次の第71条にて、総辞職後も次の総理大臣が決まるまでは、
その時点の総理大臣が職務を続けるよう定められています。
ですので、代行が立てられた場合も、その代行がそのまま職務を執り行うことになります。
ですが、あくまでも「代行」でしかなく総理としての権利を濫用することはできない、というのが現憲法です。
改憲草案ではそれ以上のことが可能となってしまいます。
現在、総理代行が法律にある理由。
それは、日本は国民主権であり、議院内閣制を採用しているからです(第67条)国会議員は国民が選出しますし、その国民に選ばれた議員が総理大臣を選ぶ、それはつまり、間接的とはいえ、国民が内閣総理大臣を選ぶということです。
ですが、国務大臣は全員が国会議員である必要はありません(第68条)半分は民間人でも構わない、つまり国民の意思とは関係なく選ぶことができるのです。
だから、代行はあくまでも代行でしかない、と現憲法ではそのようにしています。そして憲法を素直に読めば、代行ができることは「総辞職」のみとも読めます。
それも当然のことでしょう。
ですが。改憲草案では「臨時に、その職務を行う」という言葉も追記されています。
その職務は果たして「総辞職」だけなのでしょうか?
法律も新たに整備されるでしょうから、その時に何をどう追記されるのか。問題点①でも指摘しましたが、改憲草案では「復帰の見込みがある場合でも、一時的に代行を立てられる」ようになる可能性があります。
ということは、代行ができる職務は総辞職以外にもあると考える方が自然でしょう。
そして、それを、日本の最高法規である憲法で認めてしまうということ。
国会議員以外の人であっても総理代行に立てられる可能性をはらんだまま。そしてそうした人が、内閣総理大臣としての権利を使える可能性もあるということ。
こうなれば、誰も代行を咎めることができなくなってしまうのです。あなたは総理ではない!代行だ!越権行為だ!という指摘もできないということです。
それは国民主権や議院内閣制の崩壊でもあります。
※現状、入院等で総理大臣が一時的に離脱する場合。過去はほとんどがそのまま辞職しています。基本的には辞職することになるのでしょうね。
なお。
一応、次の第71条にて、総辞職後も次の総理大臣が決まるまでは、その時点の総理大臣が職務を続けるよう定められています。
ですので、代行が立てられた場合も、その代行がそのまま職務を執り行うことになります。ですが、あくまでも「代行」でしかなく総理としての権利を濫用することはできない、というのが現憲法です。改憲草案ではそれ以上のことが可能となってしまいます。
現憲法をもう一度読む
内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。
後記
総理大臣が職務を続けられなくなった場合にはどのようにするのか?
ということも、憲法にて定められています。
代行に関しては、副総理を決めている場合は副総理がそのまま。
決めていない場合も、総理が指名できる状態であれば指名するようです。
※入院先からの指示等。
過去、代行を立てた過程が不透明だと批判されたケースもあります。
このように「総理大臣」も大事なポジションであるにもかかわらず、
代行を立てられる解釈の幅を広げてしまい、
国民主権や議院内閣制の例外を認めるようなことを憲法に設けることは決して認めてはなりません。
なお、総辞職後の空白期間に関することは、次の第71条にて定められています。
総理大臣が職務を続けられなくなった場合にはどのようにするのか?ということも、憲法にて定められています。
代行に関しては、副総理を決めている場合は副総理がそのまま。決めていない場合も、総理が指名できる状態であれば指名するようです。※入院先からの指示等。
過去、代行を立てた過程が不透明だと批判されたケースもあります。
このように「総理大臣」も大事なポジションであるにもかかわらず、代行を立てられる解釈の幅を広げてしまい、国民主権や議院内閣制の例外を認めるようなことを憲法に設けることは決して認めてはなりません。
なお、総辞職後の空白期間に関することは、次の第71条にて定められています。
繋がりのある条文
この第70条とも繋がりの深い条文は以下の通りです。
(リンクの文章は記事のタイトルではなく、関連がわかるような紹介文にしています)
興味のあるところを是非。
この第70条とも繋がりの深い条文は以下の通りです。(リンクの文章は記事のタイトルではなく、関連がわかるような紹介文にしています)
興味のあるところを是非。
- 第67条:内閣総理大臣は国会議員の中から選ぶ
- 第68条:国務大臣は国会議員でない人から選ぶこともできる
- 第66条:内閣の中身とは
- 第55条:議員の資格かあるかどうか?を争う(資格争訟)
- 第58条:議員の除名について
- 第71条:総辞職後について
最後まで読んでくださってありがとうございました!