こちらは日本国憲法第38条の解説記事です。
この第38条が伝えたいポイントというのは……
具体的にはどういうことなのか?
そして、自民党が推し進めようとしている改憲草案の中身は?
その問題点とは?そういった解説・考察をしています。
ぜひ最後まで読んでもらえたら嬉しいです!
日本国憲法第38条【自白強要の禁止と自白の証拠能力の限界】
意訳
原文
日本国憲法第38条を更に深堀してみよう
要点①:「供述」と「自白」の違いについて
最初に、「供述」「自白」の違いについて整理してみます。
- 供述とは
-
捜査官や裁判官からの質問(尋問)に対して事実を述べること。
加害者・被害者・第三者といったその立場関係なく、
その状況説明・人間関係・自分の状態等のありとあらゆる内容のこと。例えば、
「犯行が行われた時間、その場所にはいました。でも私ではありません」
「この時に、このような被害に遭いました」
「A氏とは高校の時の同級生です」「隣同士ですが、あいさつ程度で生活のことは知りません」
等々。 - 自白とは
-
自分自身が犯罪を犯したという事実の全て、または主要な部分を直接認めた供述のこと。
「私がやりました」をはじめ、具体的な行動(犯行の内容や具体的な動機等)、
「犯人」が述べた、核心的な内容の事です。
- 供述とは
-
捜査官や裁判官からの質問(尋問)に対して事実を述べること。加害者・被害者・第三者といったその立場関係なく、その状況説明・人間関係・自分の状態等のありとあらゆる内容のこと。
例えば、「犯行が行われた時間、その場所にはいました。でも私ではありません」「この時に、このような被害に遭いました」「A氏とは高校の時の同級生です」「隣同士ですが、あいさつ程度で生活のことは知りません」等々。
- 自白とは
-
自分自身が犯罪を犯したという事実の全て、または主要な部分を直接認めた供述のこと。「私がやりました」をはじめ、具体的な行動(犯行の内容や具体的な動機等)、「犯人」が述べた、核心的な内容の事です。
要点②:いわゆる「黙秘権」は憲法で認められている行為
第1項
何人も、自己に不利益な供述をされない。
これは、いわゆる「黙秘権」です。
人権を守るための一つして、憲法にて明確に保障されています。
警察官が相手だろうと、言いたくなければ言わなくてもいいのです。
仮に、自分自身が犯人だったとしても、言いたくなければ言わなくても構わないとされています。
というのも。
「供述」は重要な証拠となります。
だからこそ、捜査機関側は供述を集めることに躍起になります。
だからこそ、無理矢理喋らせようとしてくるだけではなく、
ちょっとした言葉尻を捉えようとしてきます。
「何が自分にとって不利な供述となってしまうかわからない状態では喋りたくない」
「明らかに誘導されているな」と感じた時、
尋問されている側の黙秘権を認めなければ、それは冤罪を生みかねません
明治憲法(大日本帝国憲法)の時の自白を強要もまかり通っていたという過去も踏まえ、
私たちを守るために設けられた条文でもあります。
このように、黙秘権は憲法(及び刑法)にてきちんと認められています。
そして黙秘権を行使した人を不当に扱う(不利益を被らせる)ようなことはしてはいけないのです。
これは、いわゆる「黙秘権」です。人権を守るための一つして、憲法にて明確に保障されています。
警察官が相手だろうと、言いたくなければ言わなくてもいいのです。仮に、自分自身が犯人だったとしても、言いたくなければ言わなくても構わないとされています。
というのも。
「供述」は重要な証拠となります。だからこそ、捜査機関側は供述を集めることに躍起になります。だからこそ、無理矢理喋らせようとしてくるだけではなく、ちょっとした言葉尻を捉えようとしてきます。
「何が自分にとって不利な供述となってしまうかわからない状態では喋りたくない」「明らかに誘導されているな」と感じた時、尋問されている側の黙秘権を認めなければ、それは冤罪を生みかねません。
明治憲法(大日本帝国憲法)の時の自白を強要もまかり通っていたという過去も踏まえ、私たちを守るために設けられた条文でもあります。
このように、黙秘権は憲法(及び刑法)にてきちんと認められています。そして黙秘権を行使した人を不当に扱う(不利益を被らせる)ようなことはしてはいけないのです。
ただし……黙秘権の行使によって不利になることもある
基本的には、黙秘権を行使したからと言って、
それを理由にした不利益を被るようなことはあってはなりません。
ですが。例外はあります。
それは、強固な証拠・証言等があり、犯人であることが明確に確定している場合、です。
そのような時にもだんまり(黙秘権の行使)でいると反省していないとみなされ、
裁判における量刑に影響を及ぼす可能性はあります。
また、無駄に拘留期間が長くなるだけです。
基本的には、黙秘権を行使したからと言って、それを理由にした不利益を被るようなことはあってはなりません。
ですが。例外はあります。
それは、強固な証拠・証言等があり、犯人であることが明確に確定している場合、です。
そのような時にもだんまり(黙秘権の行使)でいると反省していないとみなされ、裁判における量刑に影響を及ぼす可能性はあります。また、無駄に拘留期間が長くなるだけです。
氏名は黙秘権の対象外
自分の名前も言いたくない。犯人じゃないんだから!という気持ちもあるかもしれません。
ですが、実は氏名は黙秘権の対象外であると、過去に最高裁判所でもそのように判断されています。
氏名は各手続き等にも必要なものですからね。
捜査機関側も、無理矢理聞き出すようなことはしてはいけないことにはなっていますが、
合理的な理由もなく氏名すら明かさなかった場合は、不利な立場になることもあると思っていた方がいいでしょう。
自分の名前も言いたくない。犯人じゃないんだから!という気持ちもあるかもしれません。ですが、実は氏名は黙秘権の対象外であると、過去に最高裁判所でもそのように判断されています。氏名は各手続き等にも必要なものですからね。
捜査機関側も、無理矢理聞き出すようなことはしてはいけないことにはなっていますが、合理的な理由もなく氏名すら明かさなかった場合は、不利な立場になることもあると思っていた方がいいでしょう。
捜査機関側は、黙秘権があることを伝える義務がある
「あなたには黙秘権があります」
ドラマ等で、警察や検察といった捜査機関側がそのように伝えているシーンを見たことがある人も多いと思います。
これは、刑事訴訟法という法律にて定められているからなのですね。
刑事訴訟法第198条2項
被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
要点③:「自白」の強要は認められない
第2項
強制、拷問若しくは強迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
捜査する側としては、この人が犯人だとにらんだ人が、
その思惑通りに「私がやりました」と自白してくれるのが一番助かるのでしょう。
だからといって、密室にも近い空間において
圧迫的に自白を強要され続けている状態でとった自白がどれだけ信じられるでしょうか?
この苦しみから早く逃れたいという一心で嘘をついた可能性も否めません。
また、本当は自分だったのかもしれない……と錯覚を起こしてしまう可能性だってあるでしょう。
そのように、冤罪を生みかねない危険性をできる限り排除すべく、
また、人権侵害の側面から鑑みても問題があるため、
本人の自発的な自白以外は証拠として扱わない、と定められています。
捜査する側としては、この人が犯人だとにらんだ人が、その思惑通りに「私がやりました」と自白してくれるのが一番助かるのでしょう。
だからといって、密室にも近い空間において、圧迫的に自白を強要され続けている状態でとった自白がどれだけ信じられるでしょうか?
この苦しみから早く逃れたいという一心で嘘をついた可能性も否めません。また、本当は自分だったのかもしれない……と錯覚を起こしてしまう可能性だってあるでしょう。
そのように、冤罪を生みかねない危険性をできる限り排除すべく、また、人権侵害の側面から鑑みても問題があるため、本人の自発的な自白以外は証拠として扱わない、と定められています。
要点④:「自白」のみを証拠とすることは認められない
刑事事件において、自白は証拠の王様とも言われています。
確かに、自白されたら
「犯人でもないのに罪を認めるわけがない。だからお前が犯人だ!」
としたくなるでしょう。
ですが。
もし、「自白のみだとしても証拠とできる。有罪とできる」としたらどうなるでしょうか?
捜査機関は自白させることに躍起になるでしょう。
第2項にて、拷問や強制等のような行為は認められないとされているとはいえ、
それでもやはり無理矢理にでも自白させようとするでしょう。
自分達捜査機関が作り上げた「物語」に沿うような自白を。
そこには人権の尊重もなにもありません。
または、誰かをかばうために嘘をつく可能性だってあるわけです。
その結果は、冤罪の大量生産・本当の犯罪者の野放し(逃げ得)ともなるかもしれませんね。
また、捜査機関は人権侵害をしてもいいと認めてしまうことにもなります。
そういったことのないように。
「自白だけを根拠とするのではなく、それを裏付ける確固たる証拠もきちんと捜査して見つけなさい」
ということを、この第3項は伝えているのです。
刑事事件において、自白は証拠の王様とも言われています。
確かに、自白されたら「犯人でもないのに罪を認めるわけがない。だからお前が犯人だ!」としたくなるでしょう。
ですが。もし、「自白のみだとしても証拠とできる。有罪とできる」としたらどうなるでしょうか?
捜査機関は自白させることに躍起になるでしょう。第2項にて、拷問や強制等のような行為は認められないとされているとはいえ、それでもやはり無理矢理にでも自白させようとするでしょう。
自分達捜査機関が作り上げた「物語」に沿うような自白を。そこには人権の尊重もなにもありません。
または、誰かをかばうために嘘をつく可能性だってあるわけです。
その結果は、冤罪の大量生産・本当の犯罪者の野放し(逃げ得)ともなるかもしれませんね。また、捜査機関は人権侵害をしてもいいと認めてしまうことにもなります。
そういったことのないように、自白だけを根拠とするのではなく、それを裏付ける確固たる証拠もきちんと捜査して見つけなさい、ということを、この第3項は伝えているのです。
この第38条の改憲草案はどんな内容?
自民党はこの第38条をどのように改憲しようとしているのでしょうか。
そして、その問題点とは?
簡単にいうと、以下の通りです。
改憲草案の原文を紹介します。そして具体的に考察もしてみました
改憲草案原文:第38条
※赤文字が変更箇所です。
改憲草案の問題点:証拠が自白のみでも、刑罰を科される可能性がある
現憲法では、証拠たるものが「自白」しかない場合は、
有罪にすることはもちろんのこと、刑罰を科すこともできないと書かれています。
ですが、改憲草案では「刑罰を科せられない」という一文が削除され、「有罪とされない」となっています。
また、この条文タイトルにあった「自白強要の禁止」もなくなっています。
このことから、2つの可能性が考えられます。
- 自白の強要を行うケースもあることを想定しているため、削除した
- 証拠となるものが自白だけだとしても、それをもって罰せられるようにしたい
とはいえ、
「いやいや、そもそも有罪としなければ、刑罰を科せられないのだから何の問題もないのでは?」
と思われた方もいらっしゃると思います。
ですが……まず、こういったものは
「なぜその言葉に変えたのか?なぜ追加もしくは削除したのか?」
ということも考えなければなりません。
変われば、そのたびに解釈を見直さなければならないからです。
例えば、校則や就業規則。
これだって、改正すれば「ここはなぜそのように変更したのか?」と解釈を改めて確認していくのが通常です。
意味が変わらないのあれば「変わらない」ということを明確に認めなければならないのです。
ですので、わざわざ削除したのであれば、なぜ削除したのか?ということを考えていくことになります。
閑話休題。
明治憲法時代に行われてきたこと、そして改憲草案の他の条文を読むと、削除した意図が読めてきます。
それは「軍法会議」です。
現憲法では、例えば自衛隊の人であろうとも、
私たちと同じ流れで捜査され、裁判を受けることになっています。
自衛隊の中だけで独自に裁判します、つまり軍法会議を行います、
というようなことは認められていません。
ですが、改憲草案では、第9条にて軍法会議を開くことを可能としています。
軍法会議というのは、国防軍(今でいう自衛隊)の中だけで行う裁判(軍事裁判)のことです。
そういった軍法会議の中身は、おそらく法律改正によって表に出さなくてもよいとされるでしょう。
そうすることで、以下のようなことが考えられます。
- 自白だけを証拠とすることができる
→強制、拷問等もありきとなる可能性あり - 捕虜や、軍の方針に逆らった人たちを「そういった自白」のみで刑罰に処することができる
→有罪・無罪とかそういった概念はなく、ただ刑に処す、ということになりかねない
一般国民に対しても「公益及び公の秩序」に反した者……
その中でも特に政治批判・戦争に反対した者等に対しては、
有罪・無罪という概念をすっ飛ばして、なにかしらの刑に処することもできる、
となる可能性もあるかもしれません。
現憲法では、証拠たるものが「自白」しかない場合は、有罪にすることはもちろんのこと、刑罰を科すこともできないと書かれています。
ですが、改憲草案では「刑罰を科せられない」という一文が削除され、「有罪とされない」となっています。また、この条文タイトルにあった「自白強要の禁止」もなくなっています。
このことから、2つの可能性が考えられます。
- 自白の強要を行うケースもあることを想定しているため、削除した
- 証拠となるものが自白だけだとしても、それをもって罰せられるようにしたい
とはいえ、「いやいや、そもそも有罪としなければ、刑罰を科せられないのだから何の問題もないのでは?」と思われた方もいらっしゃると思います。
ですが……まず、こういったものは「なぜその言葉に変えたのか?なぜ追加もしくは削除したのか?」ということも考えなければなりません。変われば、そのたびに解釈を見直さなければならないからです。
例えば、校則や就業規則。
これだって、改正すれば「ここはなぜそのように変更したのか?」と解釈を改めて確認していくのが通常です。意味が変わらないのあれば「変わらない」ということを明確に認めなければならないのです。ですので、わざわざ削除したのであれば、なぜ削除したのか?ということを考えていくことになります。
閑話休題。
明治憲法時代に行われてきたこと、そして改憲草案の他の条文を読むと、削除した意図が読めてきます。
それは「軍法会議」です。
現憲法では、例えば自衛隊の人であろうとも、私たちと同じ流れで捜査され、裁判を受けることになっています。自衛隊の中だけで独自に裁判します、つまり軍法会議を行います、というようなことは認められていません。
ですが、改憲草案では、第9条にて軍法会議を開くことを可能としています。軍法会議というのは、国防軍(今でいう自衛隊)の中だけで行う裁判(軍事裁判)のことです。
そういった軍法会議の中身は、おそらく法律改正によって表に出さなくてもよいとされるでしょう。そうすることで、以下のようなことが考えられます。
- 自白だけを証拠とすることができる→強制、拷問等もありきとなる可能性あり
- 捕虜や、軍の方針に逆らった人たちを「そういった自白」のみで刑罰に処することができる→有罪・無罪とかそういった概念はなく、ただ刑に処す、ということになりかねない
一般国民に対しても「公益及び公の秩序」に反した者……その中でも特に政治批判・戦争に反対した者等に対しては、有罪・無罪という概念をすっ飛ばして、なにかしらの刑に処することもできる、となる可能性もあるかもしれません。
現憲法をもう一度読む
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2
強制、拷問若しくは強迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3
何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
後記
捜査機関は、ある種の正義感をもって犯罪を無くそうとしているのでしょう。
ですが、だからといって、国民の人権を蔑ろにしていいわけではありません。
また、自分達にとって気に食わない人たちを弾圧する手段としないように。
権力を振りかざすことのないように。
あくまでも「正しい手段で、丁寧に捜査しなさい。罰せられるのは本当の犯人だけ」となるように。
この条文はいわば、明治憲法(大日本帝国憲法)時代は、
ここに書かれていることの真逆のことが行われていたということを暗に示しているとも言えます。
ですが、今後はもうこのようなことが起こらないように。そう、二度と。
捜査機関側も今一度、憲法を読み直して学んでほしいと思います。
自分達の物語を生かしたいという欲望を捨てて欲しいものですね。
捜査機関は、ある種の正義感をもって犯罪を無くそうとしているのでしょう。ですが、だからといって、国民の人権を蔑ろにしていいわけではありません。
また、自分達にとって気に食わない人たちを弾圧する手段としないように。権力を振りかざすことのないように。あくまでも「正しい手段で、丁寧に捜査しなさい。罰せられるのは本当の犯人だけ」となるように。
この条文はいわば、明治憲法(大日本帝国憲法)時代は、ここに書かれていることの真逆のことが行われていたということを暗に示しているとも言えます。ですが、今後はもうこのようなことが起こらないように。そう、二度と。
捜査機関側も今一度、憲法を読み直して学んでほしいと思います。自分達の物語を生かしたいという欲望を捨てて欲しいものですね。
繋がりのある条文
この第38条とも繋がりの深い条文は以下の通りです。
(リンクの文章は記事のタイトルではなく、関連がわかるような紹介文にしています)
興味のあるところを是非。
この第38条とも繋がりの深い条文は以下の通りです。(リンクの文章は記事のタイトルではなく、関連がわかるような紹介文にしています)
興味のあるところを是非。
- 第31条:刑罰はとにかく、法律の則った手続きが必要である
- 第32条:裁判は「助けてもらう」権利でもある
- 第12条:改憲されれば、基本的人権が制限されます
- 第13条:改憲されれば、「個人の尊重」はなくなります
- 第76条:司法機関の独立
最後まで読んでくださってありがとうございました!