「新しい憲法　明るい生活」は日本国憲法公布当初の本来の思いがわかる

私たちの日本を明るく平和な住みよい国にすること

これが日本国憲法の目的だと、日本国憲法制定当初にはっきりと宣言されています。しかし、今の政治を見ていると、憲法の目的とは大きく離れてきています。それがよくわかる内容をここでは紹介します。

その「内容」とは？

実は、憲法制定当初、この日本国憲法というものを、その考えを、国民生活に浸透させるべく「憲法普及会」設立されたのです。それは公布された約1ヶ月後の12月1日のことでした。その後1年間にわたって、メディアの全てを動員した活動が展開されたとのことです。

※日本国憲法は1946年10月29日に成立し、そして11月3日に公布されました。（施行は1947年5月3日）

その時に、国民へ直接普及するために「新しい憲法　明るい生活」が刊行され、各家庭に配布されたのです。

この時に作られた「新しい憲法　明るい生活」には、まさに、日本国憲法が本来伝えたかったこと・伝えようとしていることが載っています。そう、冒頭で紹介した言葉も載っています。

しかし、どうでしょうか。今の日本は、この日本国憲法を蔑ろにする政治家が主導権を握り、そして私たち国民にも「日本国憲法がどういうものなのか」を理解していない人が増えているように思います。

政治家だけではなく国民でさえも、大切なものを忘れかけている今こそ、「日本国憲法とは何か？何を伝えようとして、この憲法ができたのか？」を一人でも多くの人に知って欲しいと思います。

なお、原文をそのまま記載すると読みづらいところがありますので、こちらで適宜改行などを入れたり、「変わつた→変わった」等のような変換をいれました。※文章そのものは変更していません。

少しでも読みやすくなっていると思いますので、是非最後まで目を通していただけると嬉しいです。

それでは、どうぞ。目次後の「新しい日本のためにーー発刊のことば」から始まります。

古い日本は影をひそめて、新しい日本が誕生した。生まれ変わった日本には新しい国の歩み方と明るい幸福な生活の標準とがなくてはならない。これを定めたものが新憲法である。

日本国民がお互いに人格を尊重すること。民主主義を正しく実行すること。平和を愛する精神をもつて世界の諸国と交りをあつくすること。

新憲法に盛られたこれらのことは、すべて新日本の生きる道であり、また人間として生きがいのある生活を営むための根本精神でもある。まことに新憲法は、日本人の進むべき大道をさし示したものであって、われわれの日常生活の指針であり、日本国民の理想と抱負とを織り込んだ立派な法典である。

わが国が生まれ変わってよい国となるには、ぜひとも新憲法がわれわれの血となり、肉となるように、その精神を生かしていかなければならない。

実行が伴わない憲法は死んだ文章にすぎないのである。

新憲法が大胆率直に「われわれはもう戦争をしない」と宣言したことは、人類の高い理想をいいあらわしたものであって、平和世界の建設こそ日本が再生する唯一の途である。

今後われわれは平和の旗を掲げて、民主主義の礎（いしずえ）の上に、文化の香り高い祖国を築きあげていかなければならない。

新憲法の施行に際し、本会がこの冊子を刊行したのもこの主旨からである。
昭和22年5月3日　憲法普及会会長　芦田　均

昭和22年（1947年）5月3日

――それは私たち日本国民が永久に忘れてはならない新日本の誕生日である。私たちが久しい間待ち望んでいた新憲法が、この日を期して実施されるのである。

新憲法が私たちに与えてくれた最も大きな贈りものは民主主義である。民主主義政治ということを一口に説明すれば「国民による、国民のための、国民の政治」ということである。

民主的な憲法のもとでは国民が政治を動かす力を持ち、政府も、役人も、私たちによって変えることができる。多数のものが望むこと、多数のものがよいと決めて法律で定めたこと、これを実行していくのが民主主義である。

私たちは民主主義を口にする前に、まず全てのの物事をよく知り、正しい判断を持つように心がけなければならない。

特にわが国では今まで政治は一部の人々が思うままに動かしていたため、一般国民は政治について教えられることが少なく、自分の意見を述べることも窮屈であった。また自分の考えをまとめるだけの勉強も足りなかった。

だから私たちは新憲法の実施をよい機会として政治のことを熱心に学ぶ必要がある。なぜならば、これからは政治の責任はすべて私たちみんなが負うことになったからである。

新憲法はわが国に長い間続いてきた古い因襲を大幅に改めることになった。家族制度も大きく変わった。女の地位も男と同等となった。

憲法に附属する民法その他の法律によって細かい点は数えきれないほど変わってくる。このように法律だけが新しくなっても、肝心の頭の切りかえができなくては何の役にも立たない。

新憲法と共に新しく生まれ変わる日本――私たちも今こそ生まれ変わった気持で、この新しい時代に生きぬいていこう。

私たちの日本を明るく平和な住みよい国にすること

――これが新憲法の目的である。新憲法の前文にはこの目的が力強く述べてある。

旧憲法では国の政治の最高の権限は天皇がお持ちになっていた。そのため一部の軍人や重臣などが天皇の名を借りて、我が儘勝手にふるまい、悪い政治を行う隙が多かった。

新憲法では国の政治を行う大本（おおもと）の力は国民全体にあることが明らかにされた。従って国の政治は何よりもまず国民全体が幸福な生活ができるように行われなければならない。決して特別な地位にある人や、一部の少数の人々のために行われるのではないことが、はっきりと示されたのである。

天皇は神様の子孫であるからというような神話をもととして、天皇の地位や権限をこの上なく重んじていたのが今日までのいき方であった。

新憲法では天皇は日本の国の象徴であり、国民結び合いの象徴であるということが示されてある。これは私たち国民全体の天皇に対するする共通の気持ちをそのままあらわしたものである。

象徴というのは一つの「目印」であって、これによって国そのもの、または国民結び合いの実際の姿がありありとわかることをいうのである。富士山を見れば美しい日本の国が、また桜を見れば和やかな日本の春がわかるというのが、そのおよその意味である。

新憲法では天皇は従来とは違って国の色々の政治に当たられないこととなり、政治の責任はすべて内閣、国会、最高裁判所が負うことになった。政治以外の国家的な行事についても、天皇の当たられる国事は非常に少なくなった。

このように天皇についての憲法の定めが変わったので、わが国の国柄まですっか変わってしまったように思う人もある。

確かに政治を動かす力は私たち国民のものであるということがはっきりと示されたし、形の上では、随分変わった。しかし私たちの天皇に対する尊敬と信頼の気持ちによる結びつき、天皇を中心として私たち国民が一つに結び合っているという昔からの国柄は少しも変わらないのであるから国体はかわらないといえるのである。

私たち日本国民はもう二度と再び戦争をしないと誓った。

これは新憲法の最も大きな特色であって、これほどはっきり平和主義を明らかにした憲法は世界にもその例がない。

私たちは戦争のない、本当に平和な世界をつくりたい。このために私たちは陸海空軍などの軍備を振り捨てて、全くはだか身となって平和を守ることを世界に向かって約束したのである。

わが国の歴史を振り返ってみると、今までの日本は武力によって国家の運命を延ばそうという誤った道にふみ迷っていた。殊（こと）に近年は政治の実権を握っていた者たちが、この目的を達するために国民生活を犠牲にして軍備を大きくし、ついに太平洋戦争のような無謀な戦いを挑んだ。

その結果は世界の平和と文化を破壊するのみであった。しかし太平洋戦争の敗戦は私たちを正しい道へ案内してくれる機会となったのである。

新憲法ですべての軍備を自ら振り捨てた日本は今後「もう戦争をしない」と誓うばかりでは足りない。

進んで芸術や科学や平和産業などによって、文化国家として世界の一等国になるように努めなければならない。それが私たち国民の持つ大きな義務であり、心からの希望である。

世界のすべての国民は平和を愛し、二度と戦争の起こらぬことを望んでいる。私たちは世界に先駆けて「戦争をしない」という大きな理想を掲げ、これを忠実に実行するとともに「戦争のない世界」をつくり上げるために、あらゆる努力を捧げよう。

これこそ新日本の理想であり、私たちの誓いでなければならない。

人は誰でもみんな生まれながらに「人としての尊さ」を持っている。この尊さを侵されないことが人として最も大切な権利であろう。

新憲法は何よりさきに、まずこの権利を与えてくれる。そして私たちの生命や自由を守り、幸福な生活ができるように、政治の上でもいろいろと考えてくれるように約束されている。新憲法はこの考えをもととして十分な自由と権利とを与えてくれたのである。

軍閥が政治を行った時代には「国家のために」とか「国民全体のために」とかいう名目によって、私たちは、一部の政治権力を握る人々のために、働かされたり、権利を踏みにじられたこともしばしばあった。

これからは私たちは自分の権利を守ることができるというばかりでなく、国の政治は国民みんなの自由と幸福を何よりも大切に考えて行われることになった。

またすべての国民は法律上は全く平等であって、あの人は家柄がいいから私たちより偉いとか、女は男より卑しいものだとか、
そんな差別は一切許されないこととなった。華族制度も廃止されて国民はみな平等の時代となったのである。

私たちは新憲法によって、ずいぶん多くの自由や権利を与えられたが、一生懸命努力して、これを大切に守っていく義務がある。

自由といっても他人の迷惑も考えずに勝手気ままにふるまうことではない。権利だからといって無暗やたらにこれをふり廻してはならない。私たちは自分の自由や権利を、いつでもできるだけ多くの人々の幸せに役立つように使うことが大切である。

もしも各人がこの心がけを持たないで、民主主義をはき違え自分勝手なことばかりしていたなら世の中は今までよりも一層住みにくいものになってしまうだろう。私たちは権利や自由が常に義務と責任とを伴うことを忘れてはならない。

「自由」とは一体何であろうか。

一口にいえば、自分の良心に従って生きることである。長い間私たちには、その自由さえも制限されていた。私たちは何とかしてもっと自由が欲しいと願っていた。

いまその願いが果されたのである。

私たちはどんな考えを持ってもよい。神道でも、キリスト教でも、仏教でも、その他どんな宗教を信じてもよい。政府が私たちに対して特別の宗教教育を行い、この宗教を信じなければいけないなどと言いつけることは許されなくなった。

私たちは、どんな会合をやっても、どんな団体を作っても自由である。演説をしたり、新聞や雑誌を出したりすることも自由になった。どんな職業を選んでもいいし、学問の自由もまた認められた。

これらはいづれも新憲法が私たちに与えてくれた贈りものである。

わが国では、とかく女は男より一段と低いものとして扱われがちであった。人としての尊さは、女も男と何のかわりもない。

これまで結婚の場合など、自分がいやだと思っても親の意見に従わなければならぬことがあった。しかし新憲法では、結婚は男女双方の気持ちがあった場合だけに行われるので、自分の心に合わない結婚をさせられることのないように定めてある。

また夫婦は同等の権利を持ち、財産のことや相続のことについても、今までのように男だけを重く扱い女を軽んずるということのないようになった。

戸主や父親だけが特別に一家の中心となっていたわが国の昔からの「家」の制度も変わって、お互いの人格を尊び男女の平等を主眼として家庭を営むように改められた。

このように男と女は全く平等になり、いままでのような家族制度に縛られることはなくなった。その代わりこれからの男女は結婚や夫婦生活に対して全く自分で責任を負う必要がある。

特に日本の女は、いままで親や親族のいうままになることに慣れていたから、この大切な判断をする力に欠けたところがある。新憲法で高められた女の地位を生かすためには、日本の女はさらに一層その見識を深めるように努力しなければならない。

世間を見わたすと不幸な人は沢山ある。乞食、浮浪者、ゆき倒れの病人など、こういう気の毒な人々が戦争後はいよいよ多くなってきた。

新憲法ではすべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営むことを認めており、国は気の毒な人々を助け、国民一人残らず人間らしい生活のできるように努めなければならないと定めてある。

また国民はすべて働く権利と義務があり、働きたい人に職を与えることも国の仕事の一つとなった。また児童に無理な働きをさせてはならない。働く人々が団結して組合をつくり、会社や工場の雇主に対して働く時間のことや賃金のことなどをかけ合うことも初めて認められた権利である。

憲法に定めがあったにもかかわらず、実際には最近まで警察や検事局が国民を手続なしに捕えて幾日も留置場へ入れておいたり、むごい方法で取調べを行い、むりやりに自白させたりすることも少なくなかった。

新憲法ではすべてこうした不法なひどいことを固く禁じた。また罪を犯した者も必ず速かに公平な公開の裁判を受けられるようになった。もし間違って罪人の扱いを受けた場合は国に対しての損害の賠償も求めることが出来るようになった。（第31条～第40条）

これからは悪いことをしない限り、いたずらに警察や検事局をこわがる必要はなくなった。そればかりかこれからの役人は国民の生活を守ってくれる私たちの「公僕」となった。

わが国の政治の仕組みは国会と内閣と裁判所の三つに分けられている。国会は国の予算を決めたり、法律を作ったり、内閣はこの法律によって政治を行い、裁判所はこの法律を正しく解釈してそれを実行するのである。

従って国の最高の権力を握っているものは国会であって、これがただ一つの立法機関である。その国会の議員を選ぶのは、私たち国民であるから、私たちは、とりもなおさず国の政治の一番の大本である。

国会は衆議院と参議院の二つから成りたっている。衆議院の組織はこれまでと大差ないが、参議院はこれまでの貴族院が、皇族、華族および一部の特権階級の人々からできていたのと違って、衆議院と同じように、やはり私たちが選挙によって選んだ議員で組織することになった。

国の政治に必要な費用をどう使うかということも国会で決める。また新しい税金をとることや税金の種類を変えることも国会が法律として決めなければやれない。

このように国会議員の任務は、この上もなく重いものであるから私たちは本当に信頼のできる立派な人物を選ばなければならない。そして国の政治を担うものは結局は国民自身であることを私たちは深く考えなければならないのである。

国の政治の責任を担うものは内閣である。その内閣の長は総理大臣である。総理大臣は国会議員の中から国会が指名して決めるのである。つまり総理大臣も私たちが選ぶことになるわけだ。

その他の国務大臣は総理大臣が任命し、その半数以上は国会議員でなければならない。このようにしてできた内閣は国会に対して責任を負うのであるが、一切の行政は内閣によって行われるものである。

新憲法では司法権は裁判所で行うものと定めた。最高裁判所はこれまでと違って憲法に背くような法律は、これを無効とすることができる。

このように裁判所の地位は新憲法によって著しく高く重要なものとなったが、それと同時に国民と国会との力でこれを監視することができるようになった。

例えば最高裁判所の裁判官は内閣が任命するものであるけれども、これには私たち国民がよろしいと認めることが必要である。またもしも裁判官が不適任であれば、国会によってその裁判官を辞めさせることもできる。

民主主義の政治はただ中央の政治ばかりでなく、私たちの生活にとって最も身近な都道府県や市町村の行政から行われなければならない。

これまでの憲法では地方行政のことについては何の定めもなかった。そして政府が都道府県の知事を任命し、政府の決めた中央の方針を地方に押しつけ、地方の実際の状態に合った政治が行われることは少なかった。

そこで新憲法では都道府県や市町村の政治は、その土地に住む人々が自分たちの責任で自分たちの選んだ代表者により行うことに決められた。

つまり東京都や北海道の長官、各府県の知事は、これからは私たちが選挙して決めることとなり、市長村長もまた私たちが直接に選挙するのである。

こうして地方の政治も完全に私たちの手で行われることとなった。この地方自治こそ民主政治のもとである。

このように新憲法は新しい日本の骨組を定め、また私たちや私たちの子孫に対して大切な権利を約束してくれた。

この新憲法はわが国の最高の定めであって、他の法律や命令などもすべてこの定めに基づくものである。もとより前に述べたように国会や内閣や裁判所などがあって、それぞれの仕事を分担しているけれども、わが国の政治の一番大本の力は私たち国民の手にあるのである。

日本をよい国にし、私たちの生活を明るくするためには、何よりも私たち国民の一人一人が、この憲法を正しく守っていく心がけが大切である。

私たちは新憲法の実施を迎え、新日本の誕生を心から祝うとともに、この新憲法を貫いている民主政治と、国際平和の輝かしい精神を守りぬくために、全力を尽くすことを誓おうではないか。（完）